辞書の出版社がその年に話題になった言葉を選ぶ時期です。多くの場合、選ばれた言葉は自分たちを取り巻く世界に対して人々が抱いている不安や懸念を反映しています。
コリンズ英語辞典は今年「single-use(使い捨て)」という、一度だけ使用して捨てられる(プラスチックでできていることが多い)製品を表す言葉を選びました。コリンズ社では、辞書編集者が45億語のコーパスを調べてその年の新語や流行語のリストを作成しますが、BBCの「ブループラネットII」でみられるような、アホウドリが雛に知らず知らずのうちにプラスチックを与えている映像などによって「使い捨て」という言葉の使用が増加したと言っています。また、コリンズ社は使い捨て製品がもたらす問題を知る人が増えたことも指摘しています。欧州議会では、最近、ストロー、綿棒、使い捨て皿やペットボトル、フォークやナイフなどの使い捨てプラスチック製品を禁止する法案が可決され、2021年に施行される予定です。イギリスもプラスチック包装に税金を課す予定です。 「遠洋で漂うストロー、ペットボトル、ビニール袋などのプラスチックの映像がプラスチック製品の使用を減らす世界的な運動につながりました」とコリンズ社は言っています。「“使い捨て” という言葉は2013年と比べて4倍多く使用されています。」 ランゲージコンテンツの責任者であるヘレン・ニューステッド氏は、「今年は様々な問題に対する関心やしばしば怒りが新語の誕生や古い言葉の再生・再使用につながりました」と述べています。「今年の言葉のリストから、我々の言葉の変化がスポーツ、政治、世間でのブームを表すのと同じくらい、人々の懸念も表していることが明確に分かります。今年のリストにある言葉は、おそらく、深刻な社会的・政治的不安と、もう一方ではもっと気軽な活動という、両極端な世界を強調していると言えるでしょう。」 一方、オックスフォード英語辞典は「toxic(毒性)」という言葉を今年の言葉に選びました。オックスフォード社はこの言葉の意味を「有毒な」と定義し、“今年人々がもっとも多く話したトピックの代名詞”になったと言っています。そして、この言葉がウェブ版オックスフォード英語辞典で調べられる回数が45%増加したことを指摘し、「“幅広い分野”で用いられたために、2018年の“思潮、ムード、流行”を最もよく捉えています」と述べました。 オックスフォード社は、「有毒な」という言葉は1年を通して、職場、学校、人間関係、文化、ストレスを表すのにも使用され、“MeToo”運動では、男性の行動をネガティブに形作るステレオタイプの影響を表す「有毒な男らしさ」という言葉が注目されたと言っています。 しかし、「有毒な」という言葉は「chemical(化学的な)」という言葉に一番多く関連づけられ、「有毒な物質」、「有毒ガス」、「有毒廃棄物」、「有毒な大気」など環境についての議論で最も頻繁に使用されました。 オックスフォード大学出版局の代表キャスパー・グラスウォール氏は「今年の言葉を振り返ってみると、私たち全員が日増しに直面している一連の状況を表すために使われた「有毒な」という言葉を繰り返し見聞きしました。「有毒な」という言葉は、確立した父権制からしきりに叫ばれる政治レトリックの二分化まですべてに使用され、今日の社会があらゆる面でいかに両極化に向かい、時に衝突を起こしやすくなっているかを私たちがひしひしと感じていることを反映しているようです」と述べています。 オンライン辞典ドットコムも今日の社会に対して私たちが抱える不安を反映する言葉を選びました。選ばれたのは「misinformation(誤った情報)」という言葉です。オンライン辞書ドットコムは「2018年、誤った情報の蔓延は生活していく上での新たな課題です。私たちは辞典編集者として、概念を理解することは、野放しになっている誤った情報を見極め、最終的にその影響を弱めるために非常に重要であると信じています」と言っています。 しかし、「誤った情報」とはどういう意味でしょうか?オンライン辞典ドットコムは“誤った方向へ導くことを意図しているか否かにかかわらず、広まっている偽の情報”と定義しています。「最近の誤った情報の恐ろしいほどの広がりと、それを理解するために使用される言葉の増加を、私たち辞書編集者は仕事で何度も経験しています。」 私たちは「misinformation(誤った情報)」と「disinformation(デマ)」を区別しなければなりません。「デマ」は偽の情報を意図的に広めたものです。例えば、政治家は嘘と分かっている情報をわざと公表するかもしれません。それを聞いて本当だと信じた誰かが、その情報を別の誰かに知らせます。これは「誤った情報」です。 さて、「使い捨て」、「有毒な」、「誤った情報」が今年もっとも使用された言葉の一部です。世界はなんて恐ろしいのでしょう。 |
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7月 2022
筆者Jeff |