イギリスのブレグジット交渉がうまく進んでいないことは極めて明らかです。テリーザ・メイ首相は非常に不利な立場にあります。メイ首相はEU残留に投票しましたが、自身の党であるトーリー党内の右派であり、“ハード・ブレグジット”派の“人質”となっています。首相を引き継ぐのにこれと言った人物がいないため、今のところは、首相としてなんとか持ちこたえています。党内の“ソフト・ブレグジット”派は、ボリス・ジョンソンやマイケル・ゴーヴのような、より過激な誰かが首相になることを恐れ、今後もメイ首相を支持するでしょう。“ハード・ブレグジット”派は、メイ首相が彼らの望みに従う限り、彼女を支持するでしょう。
では、EUと決別するにあたって何が障害なのでしょうか? イギリスとEUは、まだ離脱交渉の“第一段階”にあります。“第二段階”の話し合いが12月に予定されているため、本来なら、現時点ですでに合意に至っていなければならないところです。 先日、欧州理事会議長であるドナルド・トゥスク氏は、12月にブレグジット交渉を貿易や移行期間に関する議論に進めるようEUを説得するには、メイ首相はまだ“大きな課題”に直面していると述べました。 問題の一つは、ブレグジットの何年か後まで続くEUのプロジェクトやEUとのコミットメントのための支払金です。離脱に伴う清算金としてEUが600億ユーロを要求しているのに対し、イギリスが支払を申し出ているのはたったの200億ユーロです。 もう一つの問題は、イギリスが2019年3月のEU離脱から新たな貿易関係を始めるまでのギャップを埋めるために、メイ首相が改めて表明したように、“約2年間”と想定される移行期間を設けることを望んでいることです。EUはかねてより、移行期間はいかなる場合も現状を維持するものでなければならないと主張しており、それはイギリスが欧州司法裁判所の司法権を含むEUの規則に従わなければならず、引き続き移動の自由を許可することを意味します。メイ首相はこれを受け入れました。 EUは、市民の権利の確かな保証を求めています。重要な意思表示として、メイ首相は実際の離脱協定にイギリス国内に居住するEU市民の法的保護について記載することを申し出ました。 解決が困難と思われるのは、アイルランド共和国とイギリスの一部である北アイルランドとの国境の問題です。アイルランド、イギリス、EUはいずれも、他のEU諸国間の国境と同じく、入国審査のない“開かれた国境”を望むと言っています。問題は、これをどのように実現するかです。 一つの方法は、イギリスが単一市場および関税同盟に残ることですが、メイ首相はこれを拒否しました。もう一つの方法は、アイルランドが提示している案で、北アイルランドは単一市場と関税同盟に残り、イギリスは抜けるというものです。しかし、メイ首相は少数派の政府が権力を保持するためにDUP(民主統一党)の支持を必要としていますが、DUPの党首は、先日、「DUPは、北アイルランドとイギリスのその他の地域間の貿易の障害となるような取り決めや、北アイルランドがイギリスのその他の地域と違って欧州の規制を反映させなければならないような取り決めは、いかなるものも支持しない」と述べています。 アイルランド政府は、ハード・ボーダー(厳しい国境措置)を実施しないことをイギリスが書面で保証することを求めており、国境に関する保証がなされない限り、貿易交渉を拒否すると強く主張しています。 この問題の解決は難しいところです。メイ首相が方針を180度転換し、イギリスが単一市場と関税同盟に残るとすれば、おそらくトーリー党のハード・ブレグジット派からの反発にあい、総選挙に至る可能性が高まるでしょう。一方、アイルランドの要求に従い、DUPの支持を失えば、これもまた総選挙を意味することになるでしょう。 現在、テリーザ・メイ首相はまさに苦境に立たされています。 |
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7 月 2022
筆者Jeff |