良いコミュニケーションには何が必要か考えてみましょう。おそらく、明快で論理的な情報の提示が重要であること、さらに綴りや文法が正確でなければなりません。では、これを実現するのが難しい理由とは一体何でしょうか。その理由の一つとして、優れた医師や研究者が必ずしも優れた書き手であるとは限らないことが挙げられます。また、文化や環境も重要な要因ですが、サイエンティフィック・ライティングについて公になっているアドバイスのほとんどでは、この点が見過ごされがちです。ここでは、文化や環境がサイエンティフィック・ライティングに及ぼす影響を取り上げます。 1) 医療文化/環境 医療文化/環境とはどのような意味でしょうか。コミュニケーションの大部分は実は共通の前提のもとに成り立っています。そうした前提は国レベルでの言語及び文化と結び付いてい ることもあれば、個々の職場環境と関連している場合もあります。例えば、日本人著者は、日本で施行されている国民健康保険制度 (National Health Scheme) に言及することがありますが、これは、イギリスやヨーロッパ (又はオーストラリア) の医師にとっては容易に理解することができます。なぜなら、自国に同様の保険制度があるからです。しかし、アメリカにはこのような制度がないため、アメリカ人医師には説明が必要な場合があります。別の例を挙げると、日本では比較的入院期間が長いのが一般的ですが、他のほとんどの先進国の医師に対しては説明が必要です (医療制度が異なるため)。以上は、日本独自の医療文化/環境に基づく前提の例です。このような問題には、書く手を止めて「今自分は海外の読み手に向けて書いているのだ」と意識することで、比較的簡単に対処できます。 2) 国の文化 どの国にも独自の文化があります。そして、その文化は前提条件となってコミュニケーションに影響を及ぼします。上の図では、コミュニケーションに影響を及ぼす最たる要因として 「文化」が位置づけられています。私たちは自国の文化における前提 (文化に基づく考え方) に慣れすぎているため、努めて意識しない限りその影響を見逃してしまいがちです。 例えば、私の名前は英語では“David McQuire” (日本語で言う「名/姓」の順) ですが、日本語の語順に従えば“McQuire David” (姓/名) となります。英語で住所を書く場合、“25 South Street, Bentleigh, Victoria” (番地/通り/市/州) などのようになりますが、日本語では順序が逆になります。このような違いはご存じかと思いますが、なぜこうした違いが起きるのかについて考えたことがありますか。 英語を母国語とする人は、物事を分類する時、「個」から「集団」へ、「特定」から「一般」へ、あるいは「小」から「大」へ考える傾向があります。そのため、姓 (ファミリーネーム) よりも名前が先になり、住所であれば番地が最初になるのです。 上記の例および日本語を母国語とする人の調査 (小規模な調査であるため正確ではないかもしれませんが) に基づくと、日本人は反対に考える傾向があると思われます。つまり、日本人は物事を分類する時、大きな分類から小さな分類へ、集団から個人へのように考える傾向があると考えられます。読み手の思考様式は逆なわけですから、これが英語の原稿を書くときに誤解を引き起こしかねません。 3) 言語的文化 英語と日本語は文の構造が違うため、英語で執筆する日本人研究者にとって言語的文化は最大の問題です。簡単な例を取り上げてみましょう。“I eat lunch at Kappa Sushi every day.”という文は、主語 (I)、動詞 (eat)、目的語 (lunch)、修飾語 (at Kappa Sushi every day) の語順から成り立っています。しかし、日本語では同じ文が「私はかっぱ寿司で毎日昼ご飯を食べます」となります。これは、主語、修飾語、目的語、動詞の順から成っています (英語の語順に当てはめて訳せば、“I Kappa Sushi at every day lunch eat”です)。残念なことに、二つの言語は全く違うのです。日本人は学校教育で英語を学習したのですから、こんなことは百も承知のはずです。にもかかわらず、バラバラな英語を書く日本人著者が後を絶たないのは、日本語の言語的特質の影響があまりにも大きいからでしょう。 ≫このような壁を乗り越える最善の方法は、正しい語順で英語を書くことを常に意識し、正しい語順を意識しながら自分が書いたすべての文を見直すことです。 ≫自分では絶対正しいと思える文でも、英語を母国語とする人には奇妙に聞こえる場合が多々あることを覚えておいてください。意識的に「日本語の眼鏡」をはずし、「英語の眼鏡」を通して自分の書いたものを見てください。 |
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筆者
Dr.McQuire |