エドワード・リアをご存じでしょうか。英国ビクトリア朝時代の作家で、画家でもあった人物です。イラストレーターや作曲家としても活躍しました。しかし、なによりもリアは詩や散文における「ナンセンス文学(literary nonsense)」と「リメリック(limerick)」を世に広めたことで知られています。
1812年、リアはロンドン近郊の中流家庭に生まれました。21人兄弟の20番目で、4歳からほかの家族と離れ、最年長の姉アンによって育てられました。アンは自分が死ぬまで50年以上、リアの世話を続けました。リアは幼いころから生活費を稼ぎ、16歳ですでに絵を描いて収入を得ていました。ほどなくして、イラストと絵が認められて「動物学協会」に就職、のちにダービー伯爵に雇われることになります。後年は、ギリシャやエジプト、インドやセイロン(現在のスリランカ)といった各地を旅しました。この旅では、数多くの油彩画や水彩画、挿絵が生み出され、それらの作品は高い評価を受けました。 リアは演奏家でもあり作曲家でもありました。アコーディオン、フルート、ギターのほか、とりわけピアノを得意としていました。同時代の多くの詩に音楽をつけ、特にロード・テニソンの詩につけた曲では名声を得ました。 しかし、今日では作家としてのリアがもっとも有名でしょう。1846年、リメリックを集めた「Book of Nonsense(ナンセンスの絵本)」が出版されました。その後も、子ども向けの有名な詩(リメリックではない)や「ふくろうと子猫(The Owl and the Pussycat)」など多数の作品を発表しています。意表をつく結末を作り出しては、読者を驚かせるのがリアは大好きです。言葉の音や言葉遊びを好み、たくさんの新語を造り出しています。リアの詩は大きな喜びであり、すべての文学ファンにとって必見です。 リアの最も有名な詩型「リメリック」を見てみましょう。リメリックは短い5行詩で、規則的なリズムと「aabba」の脚韻を踏むのが特徴です。リアより以前にもありましたが、一般に広めたのはリアだと言われています。 There was an Old Man with a beard (あごひげを生やした爺さんが言ったとさ) Who said 'It is just as I feared! - (「わしの恐れていたことが!) Two Owls and a Hen, (2羽のふくろうと1羽のめんどり) Four Larks and a Wren, (4羽のひばりと1羽のミソサザイ) Have all built their nests in my beard!' (大事なひげに巣を作っちまった!」) 5行目の最後の単語が、1行目の最後の単語と同じことに注目してください。これはリメリックのルールではありませんが、リアが好んで使った型です。 There was an Old Man in a boat (ボートに乗ったおじいさん) Who said, 'I'm afloat! I'm afloat!' (「俺は浮いてる、浮かんでる!」と言ったけど) When they said, 'No! you aint!' (「浮いていない」とみんなに言われて) He was ready to faint, (気を失いそうになったとさ) That unhappy Old Man in a boat. (ボートに乗ったあわれなおじいさん) There was an Old Person of Gretna (グレトナのご老人) Who rushed down the crater of Etna; (エトナの火口に駆け寄った) When they said, 'Is it hot?' (「熱いだろ?」とみんなに聞かれ) He replied, 'No, it's not!' (「ちっとも!」と答えたさ) That mendacious Old Person of Gretna. (大ぼら吹きのグレトナのご老人) ただし、常にこの型に従ったわけではありません。 There was an old man of Tobago (トバゴの一人のおじいさん) Who lived on rice, gruel and sago (食べるのは米とおかゆとサゴばかり) Till, much to his bliss, (ついにある日うれしいことに) His physician said this - (お医者さんがこう言った) To a leg, sir, of mutton you may go. (マトンの足なら食べてもいいよ) リア以降、たくさんのリメリックが作られました。卑猥で下品なものも数多くあります。面白い作品を一つ紹介しましょう。 There once was a man from Nantucket (昔、ナンタケットから男が来た) Who kept all his cash in a bucket (全財産をバケツに入れていた) But his daughter named Nan (でも彼の娘ナンが) Ran away with a man (男と一緒に駆落ちした) And as for the bucket, Nantucket [Nan took it] (バケツはどうなった……ナンタケット[ナンが持っていった]) これが1902年に発表されると、続編が次々と生まれました。 But he followed the pair to Pawtucket (男はポータケットまで追いかけた) The man and the girl and the bucket (男と娘とバケツを追いかけた) And he said to the man (そして、駆落ち男に言ったのさ) He was welcome to Nan (ナンは自由にしてもいい) But as for the bucket, Pawtucket [Pa took it] (ただし、バケツはどうなった……ポータケット[ポーが持っていった]) リアは晩年、地中海に面したイタリアのサン・レモに定住しました。1888年、75歳でその生涯を閉じました。リアは長年にわたって病気や発作、うつ状態、人間関係の欠如に苦しみましたが、彼が残した作品は何世代にもわたって読者に喜びを与えています。ぜひ「The Owl and the Pussycat」をネットで探して、聴いてみてください。こちらのサイトでも聴くことができます:https://www.youtube.com/watch?v=HpwAP36-w7E. ぜひ楽しんでください。 コメントの受け付けは終了しました。
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7月 2022
筆者Jeff |