英語には「data is」という表現があるかと思えば「data are」という表現もあります。どちらが正しいのでしょう。答えは「どちらも正しいし、どちらも正しくない」です。このような答えになる理由は「data」がラテン語に由来する単語で、しかも複数形だからです。ラテン語の単数形は「datum」といいます。ラテン語の複数形だから「are」を使うべきだと言う人もいればそうではないという人もいるのです。
(ラテン語には複数形の作り方がいくつかあり、datumは「~um」を「~a」に変えるグループに属します) 現在では、古典的な教育を受けた人や医学などラテン語を使用する専門家はラテン語の文法の知識があるのでたいてい「data are」を使用します。 英語に多くの不規則複数形があることにも目を向けてみましょう。「calfとcalves」「footとfeet」「knifeとknives」「mouseとmice」「oxとoxen」「womanとwomen」などがそうです。また英語にはラテン語の言葉もあり、「alumnaとalumnae」「axisとaxes」「criterionとcriteria」「focusとfocii」「fungusとfungi」「indexとindices」「radiusとradii」などがそれに当たります。こうした言葉の複数形には常にラテン語の複数形があてられています(中には「s」や「es」をつける人もいます)。他にもたくさんあって一般にラテン語の規則に従っています。 それでは「data are」がいいのかというと必ずしもそうではありません。考えてみてください。私が子供の頃、イギリスのグラマースクールではもっぱらラテン語を教えていました。私も勉強しました。しかし最近の場合、ラテン語は受講生が非常に少ない科目で規則を知っている人はほとんどいなくなってしまいました。 また現代英語において「data」は数字列や文字列など「情報」の類を意味する集合名詞と考えられています。dataは必ずしも英語でまだ元の意味を保っている「datum」(ラテン語の「与えられたもの」を意味する)の複数形ではありません。「datum」は地図製作や地理学の分野で使用され、基準点や基準線、基準面を意味します。「data」が「datum」の複数形でないのであれば「are」を使う必要はなくなります。 どのような場合でも必ずラテン語の規則に従うわけではありません。たとえば「3 lbs of apples(3ポンドのリンゴ)」のような表現をよく見かけます。この場合「lb」は重さ(質量)1ポンドのことで「ポンド」はラテン語の「pondus」に由来します。一方「lb」はラテン語の「libra」の省略形で「はかり」を意味する複数形です。したがって「lb」はすでに複数形なので理論上「lbs」は間違っていることになります。しかし、ほとんどの人が「lbs」と書きます。 またラテン語に対して常にラテン語の文法を使うのであれば、英語ではなぜすべての外来語に対してその母語の文法を使わないのでしょう。この論理に従うと、ドイツのソーセージの場合「bratwurst」は単数形であるため「two bratwurst」(または「bratwursts」)と言うべきではありません。ドイツ語の複数形を使って「two bratwursten」と言わなければならないことになります。 もう1点は現在の感覚からすれば「data is」の方がほとんどの人にしっくりくるということです。「information are」や「the weather are」とは言いません。これらもよく似た集合名詞です。肝心なのはほとんどの人が一番違和感を覚えない表現であるということです。 気をつけてほしいのは「is」と一緒に使っても「a data」にはならないということです。この場合「data」は不可算名詞と考えられます。代わりに「a data item」や「a piece of data」といった言い方をします。 こうなると一体どちらを使えばいいのか迷うことでしょう。医学や関連分野では「data are」を使います。情報技術や一般的なものの場合、「data is」を使っても大きな問題にはなりません。科学的な文章の場合はどちらが望ましいか確認しましょう。おもしろいことに現在イギリスでは「data is」が広く使われていますがアメリカではまちまちです。ニューヨーク・タイムズ紙ではなんと同じ日に両方の表現が使われていました。 最後にグーグルで検索してみたら「data are」のヒット数は27,100,00件、「data is」のヒット数は94,800,000でした。ご参考まで。 読者へのメモ:「古典的な教育」とは、学校で生徒がラテン語とおそらく(古典)ギリシャ語の授業を受けることを意味しています。昔はラテン語とギリシャ語が学校で教えられるほぼ唯一の科目でした。 「グラマースクール」とは11歳から16歳、または18歳の生徒のための学校です。入学するには11歳(現在)で試験に合格しなければなりません。グラマースクールでは優秀な生徒を教えていました。最近では多くの学校が様々なレベルで(総合的に)教えるようになりましたが、今でも規模の大きい名門校が何校か残っています。ちなみにこの「グラマー」とは元々英語ではなくラテン語の文法のことを指していました。シェークスピアはストラトフォードのグラマースクールに通っていたときラテン語の文法を習いました。当時、英語の書き言葉の文法規則はまだ体系化されていませんでした。 コメントの受け付けは終了しました。
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7月 2022
筆者Jeff |