
第3回 辞書の使い方
外国語の翻訳に辞書は欠かせないアイテムです。日本人の場合、通常は中学時代から英⇔和の辞書を使い始めますが、その辞書の「使い方」について教えている学校は殆どありません。今回は「辞書の使い方」について、少し考えてみたいと思います。
その昔、大学受験にむけて英単語を覚えるための大変ポピュラーな辞書として「赤尾のマメ単」(正確には『英語基本単語熟語集』、赤尾好夫、旺文社)と言うのがありました。手のひらにすっぽり入る大きさの辞書で、大学受験のための重要英単語がアルファベット順に並んでいて、赤いビニール製の表紙が付いていました。ところが、その1番目の単語がこともあろうにabandon(あきらめる、断念する)で、多くの受験生がその単語を見てマメ単を覚えるのをあきらめてしまう…という話がまことしやかに流れていました。
その時のクセでしょうか、単語の訳語は「辞書に書かれてあるものから選ぶ」と思っている人が相当数いるのです。さらに、「辞書に載っていない訳語は使えない、使うと間違いだ」と思っている方もかなりいる様です。例えば、あるメディカル翻訳の講義をしている時に、受講生の方から次の様な質問を受けました。
「先生、先生はここのDrugを『医薬品』と訳していますが、私の辞書には『医薬品』の訳語が出ていないのですが、『医薬品』で本当に正しいのでしょうか?」 確かに、私が持っている辞書でDrug(名詞)を調べても、
とあるだけで、この方の言うとおり『医薬品』という訳語は出てきません。では、『医薬品』
という訳語は本当に使えないのでしょうか?
いえいえ、そうではありません。語学の辞書と言うものは、その語句の持っている代表的な意味を示す訳語を列挙して、その語句が示すニュアンスを表現しているのです。
つまり、英単語のDrug(名詞)の持つニュアンスは、日本語の「薬、麻薬、薬物、覚醒剤、ドラッグ」などに相当するということを辞書は説明しているのです。ですので、「薬、麻薬、薬物、覚醒剤、ドラッグ」などのニュアンスを持つ別の日本語としては、医薬品、大衆薬、薬剤、クスリ、治験薬、試薬、・・・などいくらでもあり、それらは全てDrugの訳語として使用可能なのです。
さらに、辞書の使い方として重要なのが「用例」の検討です。辞書では通常、代表的な訳語のあとに、その単語を使用した文や語句の例、即ち、用例が並んでいます。実を言いますと、辞書の良し悪しはこの用例の量と質で決まってくるのです。 例えば、Drugの用例を私の辞書で見てみますと;
などが並んでいて、その中に
と言うように Drug=医薬品 としている用例もたくさん出てきます。単語を調べる際には是非とも用例まで丁寧に読んでください。
まとめとしまして、辞書で単語を調べる場合には次の様に心がけて頂きたいと思います。
① 辞書にある訳語から、その単語の持つニュアンスをくみ取る。
② さらに、辞書に載っている用例を見て、その単語の使われ方を確認する。
③ その上で、原文にフィットするニュアンスの訳語を考え出す。
最後の「考え出す」ところがミソで、翻訳のQualityはここで決まってくると言っても過言ではないのです。
ある有名な翻訳小説では、I love youを「別れたくないんだ」と訳していました。その時の原文のニュアンスをくみ取っての訳語だったのでしょう。
デハマタ・・・![]()